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京都地方裁判所 昭和37年(わ)197号 判決

被告人 橋塚昌純

昭一一・一一・二九生 無職

松本孝

昭七・二・一〇生 土木手伝

主文

被告人両名を各懲役六月に処する。

被告人橋塚に対し、未決勾留日数のうち七拾日を右刑に算入する。

被告人両名に対し、それぞれこの判決が確定した日から参年間右各刑の執行を猶予する。

被告人橋塚を保護観察に付する。

訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。

理由

罪となるべき事実

被告人両名は、いずれも博徒砂子川組こと岡田卯一郎の子分南利彦の配下に属していたものであるが、昭和三十七年一月頃建築請負業藤井修から、同人の京都市右京区嵐山中尾下町五十四番地東旅館こと島田保に対する建築請負代金債権の取立方を依頼され、同年二月八日午後四時過頃前記島田方に赴き、同女の姉三宅秋子及び姪北村吉子に面会して右代金の支払を求めたが、島田の不在等を理由に拒絶されたのに立腹して、

第一  被告人両名は共謀の上、その頃同所において、右三宅秋子(当五十九年)及び北村吉子(当四十三年)に対し、被告人橋塚が「金を払わないなら五十万円分だけこの家をつぶしてやろうか、つぶす位わけない、口先だけで云つているのでないぞ」と申し向けて、親族の財産に対し害を加えるべきことを以て人を脅迫し、

第二  被告人松本は、その頃同所において、島田保の所有に係る同家階下八畳間の明りとり窓硝子一枚(時価二千五百円)を足で蹴り破つて器物を損壊し

たものである。

証拠の標目(略)

法令の適用

被告人橋塚の判示第一の各所為について刑法第六十条、第二百二十二条第二項、第五十四条第一項前段、第十条(懲役刑選択)

被告人松本の所為について

判示第一の各脅迫の点右と同一法条、

判示第二の器物損壊の点同法第二百六十一条、

以上各懲役刑選択の上同法第四十五条前段、第四十七条、第十条、

未決勾留日数の算入について同法第二十一条、

刑の執行猶予について同法第二十五条、

保護観察について同法第二十五条の二第一項後段、

訴訟費用の負担について刑事訴訟法第百八十一条第一項本文、第百八十二条、

暴力行為等処罰に関する法律違反の訴因を排斥した理由

本件起訴状によれば、その訴因の要旨は、被告人両名は共謀の上、判示日時場所において三宅秋子及び北村吉子に対し、被告人橋塚が金を払わんと五十万円分だけこの家をつぶしてやろうかと怒号し、被告人松本が島田保所有の家屋の窓硝子を足蹴りにして器物を損壊し、以て被告人両名共同して器物を損壊するとともに、島田保の財産に危害を加えるべきことを以て脅迫したものである。とゆうにあつて、右は暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項に該当するものとされている。

おもうに、数人が共同して脅迫または器物損壊等の行為をしたことが、同法第一条第一項に該当するには、その数人がこれを謀議しただけでなく、ともに現実に実行行為を分担することを要するものと解すべきところ、本件にあつては、被告人等数人がともに現実に脅迫行為をし、または器物損壊の行為をしたことを認めるに足りる証拠は見当らない。もつとも、被告人橋塚は脅迫行為をし、被告人松本は器物損壊の行為をしたことは判示認定の通りであるが、同法第一条第一項の趣旨は、その立法の経過等に鑑みて明らかなように、暴行、脅迫または器物損壊がそれぞれ数人の現実の実行行為によつて行われることを特に重視しようとしたものであつて、数人のうちの一人が脅迫行為をし、他の一人が器物損壊の行為をしたような場合は、たとえその間に包括的な共同謀議が行われたとしても、それぞれの犯罪の実行行為が現実には単独で行われたにとどまるかぎり、同法第一条第一項に所謂数人共同の観念に包含されるものと解すべきでない。

したがつて、被告人両名の本件所為は同法第一条第一項の罪の構成要件を欠如するものといわざるを得ない。そこで、訴因の同一性の範囲内において判示のように認定した次第である。

以上の理由により主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本盛三郎)

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